調査員:芳賀智士
札幌の色彩を決める70色
札幌の中心街を歩いていて、誰もが目印としている建物といえば「さっぽろテレビ塔」だろう。
大通公園の東端にある巨大な赤い鉄骨のタワーは、
緑色の展望台をかかえ、巨大な時計もついているのでよく目立つ。
周囲にはシックな色合いのビルが多いのでなおさらのことだ。
札幌には「札幌の景観色70色」という建物等の色彩ガイドラインがある。
ある程度の規模の建築物はこの色彩ガイドラインに従って届出しなければいけない。
簡単にいうと勝手な色の建物を造っては駄目ということだ。
「札幌の景観色70色」は札幌市と札幌市立高等専門学校(現在の札幌市立大学)、さらに民間の塗装業団体やデザイナー等も参加して2004年に策定された。
決して根拠なく決められたものではなく、四季を通じて札幌にふさわしい色彩70色が選ばれた。
それぞれ札幌にちなんだユニークなネーミングとストーリーがついている。たとえば「エゾフクロウ」と「シマリス」というカラー。
この2色は藻岩山のロープウェイに採用されている。
藻岩山に生息する動物がそのまま色の名前になり、ロープウェイにも配色された。
しかし、なかには不思議なネーミングのものもある。
たとえば「オーロラ」、「月無夜(ミッドナイト)」、「雪消水(ゆきげみず)」。なんだかすぐにはイメージができないと思う。
特に「オーロラ」である。
「オーロラ」をカラーチャートで見るとグリーンとブルーが混じった軽快なカラーだ。
フェンダーのギターならオーシャンターコイズを思い出す。
札幌でオーロラ?である。
「札幌の景観色70色」にあるのであれば見た人はいるのだろうか。
結局、あれこれと検索してみたが札幌での目撃例は見つけられなかった。
ところで景観色にはそれぞれストーリーが設定されている。
「オーロラ」のストーリーを見てみると・・・
寒い地域だからなおさらもっと寒い国にしかみられないオーロラに憧れを抱くのは当然かもしれない。極寒の
極地、冬の夜空に現れる光のカーテンは、神秘的な動きと同時に冷たい色の変化をもたらす。深い濃紺を背景
に透明感のあるブルーグリーンが波打っている姿を一度この目で見たいと思う。
引用:札幌の景観70色ストーリー
http://www.sics-sapporo.com/70colors/70stories.php
「〜この目で見たいと思う」とあるのはオーロラを札幌で見てみたいなぁということか。
どうしても見たいというのであれば地下街のオーロラタウンへどうぞということか。
しかし、せっかく「札幌の景観色70色」を調べてみたのだから、
「オーロラ」カラーを使った建物を探してみようと考えた。
色というものは印刷物と建築物とでは同じものは再現できない。
さらに時間が経つよどんどん変化する。
新聞紙が古くなると変色するあれだ。
あったとしても近似色だろうと見当をつけて探してみることにした。
カラーチャートとカメラを手に大通公園を何回が往復してみる。
ビルばかり目指して探していたけれど見つからない。
大通公園の東端を見上げてやっと見つけた。
それは、さっぽろテレビ塔の展望階の緑色だった。
実はシルバーだったさっぽろテレビ塔
さっぽろテレビ塔の配色を調べてみると、
鉄骨部が「クラウディレッド」、展望階が「海松藍色(みるあいいろ)」となっている。
2013年、8回目の工事で塗装された色だ。
しかし、「クラウディレッド」も「海松藍色」も「札幌の景観色70色」には含まれていない。
これだけ大きな建造物なのに色彩ガイドラインの対象外なのだろうか。
何故さっぽろテレビ塔にはこの色彩に決まったのだろう。
完成当時から赤と緑だという思い込みが自分にはある。
思い込みを正さなくてはいけない。
さっぽろテレビ塔の歴史を調べてみることにした。
驚いたことに、完成当時のさっぽろテレビ塔は「シルバー」だったのだ。
さらに、今の色になるまでには様々な変遷があったこともわかった。
昭和31年(1956年)6月には建設着工、昭和32年(1957年)8月に完成。
・完成当時のカラーは「赤」ではなく「シルバー」だった。
・設計者の内藤多仲氏は名古屋テレビ塔も設計しており、色は「シルバー」だった。
・そのカラーをそのままさっぽろテレビ塔にも採用したらしい。
※建設中のさっぽろテレビ塔。右の写真には後方に消防望楼が見える。
(札幌市公文書館蔵)
※完成したさっぽろテレビ塔。右の写真は白く塗装されているのがよく分かる。
(参考資料「さっぽろテレビ塔の塗替における協議の方針について」より抜粋)
昭和38年(1963年)
・鉄骨部分を「コッパーローズ」(今の色に近い赤色)に塗替えた。
・当時の燃料の主役は石炭で、冬になると一面が煤煙でススだらけになった。
・テレビ塔も例にもれずシルバーの汚れが目立ったために赤色に塗替えられたらしい。
・当時は航空関係者からも「シルバーでは目立たない」という指摘もあったという。
(参考資料「さっぽろテレビ塔の塗替における協議の方針について」より抜粋)
昭和44年(1969年)
・鉄骨部分の赤色を「クラウディレッド」に変更。この色は現在も使用されている赤色だ。
・展望階は「薄緑」に塗られた。
平成4年(2002年)
7回目の塗装工事が実施。
・鉄骨部分の「クラウディレッド」で変更なし。
・展望階上部は「薄みどり」、展望階下部は「緑」に塗られた。
(参考資料「さっぽろテレビ塔の塗替における協議の方針について」より抜粋)
平成25年(2013年)
8回目の塗装工事が実施。
すでに「札幌の景観色70色」は制定されていたので、いろいろと義論があったらしい。
・鉄骨部分の赤色以外にする案として、白色、ライラックが候補に。
・しかし周囲との景観や雪とのコントラストを考えた結果、色がぼけることや汚れに関する問題が懸念された。
・前年9月から塗り替えに関するアンケートを実施、650通の72.5%が従来のカラー存続を願うという結果が
出た。そのため、従来の色を踏襲された。
・展望階部分は、大通公園の樹木にマッチした青緑色の「海松藍(みるあい)色」を採用。
「クラウディレッド」も「海松藍(みるあい)色」も景観色の仲間だった。
当時の義論について札幌市の資料をみつけることができた。
・色彩景観60色には、色相、明度、彩度の許容範囲が設定されており、今回の色彩はその範囲ん入っている。
・本件は、市民の注目も高い、公共性のあるシンボル施設であり、市民アンケートや札幌市都市景観審議会での
意見を踏まえ、第三者による塗装検討委員会において色彩案の検討がなされた。また、一部の市民から景観
70色による色彩提案がされた。
引用:審議案件:さっぽろテレビ塔の塗替における協議の方針について
https://www.city.sapporo.jp/keikaku/keikan/singikai/kaisai/documents/24_2setumei1.pdf
その資料によると「札幌の景観色70色」には許容範囲があるという。
どうやら「クラウディレッド」も「海松藍色」も許容範囲内らしい。
色というものは厳密に決めても印刷物と建築物は同じ色彩にははらないし、経年変化もあるので当然のことだと思える。
最初から想定内のことです、ということかもしれない。
結局、札幌で見ることができない「オーロラ」は、
さっぽろテレビ塔の展望台から
大通公園を見下ろしているということのようだ。
さっぽろテレビ塔は約10年ごとに塗り替えられてきた。
次の色合いはどのようなものになるか、検討はすでに始まっているかもしれない。
もし面白いカラーリングがあるのなら提案してみるのはどうだろう。
あなたのアイディアで次のさっぽろテレビ塔の色彩が決まるかもしれない。
【参考文献・資料】
さっぽろテレビ塔の塗替における協議の方針について
https://www.city.sapporo.jp/keikaku/keikan/singikai/kaisai/documents/24_2setumei1.pdf
70色のガイドラインで美しい札幌の街並みを
https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2014/07/articles/1407-05/1407-05_article.html
札幌の景観70色ストーリー
http://www.sics-sapporo.com/70colors/70stories.php
札幌の景観色70色 – 北海道開発協会
http://www.hkk.or.jp/kouhou/file/no496_chiiki.pdf
※掲載したカラーサンプルはすべて近似色です。実際のカラーとは違う場合があります。













